還暦つれづれ草


青木ヶ原樹海


前から一度歩いてみたいと思っていた富士山麓の青木ヶ原樹海の中を、ほんの少しだけど
歩くことが出来た。たまたま東海自然歩道の一部で、精進湖民宿村から富岳風穴へ向かう
道を見つけたので、樹海の中へ入って行くことができたのだ。

その前に、樹海の中にある鳴沢氷穴を230円也を払って見て来た。すごい行列に並んで氷
の側を10m位通るだけだが、こんな処に氷が出来るのが不思議だ。江戸時代に、この氷を
切り出して江戸の殿様に献上したという。氷もさることながら、穴に入るとき、溶岩台地の上に
樹木が根を這わせている様子がよく判る。うまく木が立っていられるものだと感心するのだ。



樹海の下の鳴沢氷穴 冷たい風が吹き出してくる 氷はまだだいぶ下にある

遊歩道は平らで歩きやすいが、道から一歩外れるとデコボコの溶岩で、やたら穴が開いて
いたり、木の根が這いまわっている上に落ち葉が積もってふわふわとした足元だったりする。
いずれにしても凹凸が激しいのだ。
どちらを向いても同じ様な風景で、道に迷って遭難すると云うのも成る程なと納得する。所々
に自殺を思いとどまらせるための、呼びかけのチラシを入れた箱が設置されている。

今から40年前、22才の時、名古屋に転勤になり一人で養老山へ登ったことがあった。降り
る途中、金網などがあって「お母さんが待っています」などと書かれた板が多数ぶら下がって
いる所へ出た。そこが有名な養老の滝の上だったのである。....そんなことを想い出した。
あの頃は若かった。

「ちょっと待て!もう一度考えよう!」との見出しで始まるそのチラシには、樹海から生きて戻っ
た方々の体験談等も載っている。沢山の方々に多大な心配や迷惑を掛けたうえに、決して綺麗
な死に方は出来ないみたいなのである。



富士山 樹海は右下へ拡がっている

同じ樹海の中でも「氷穴」や「風穴」は、駐車するところもない程の大混雑なのに、この素敵な
雰囲気の樹海の中の遊歩道は極めて静かで、1.8kmばかり歩いた間に二人連れ二組とすれ
違っただけだった。

遊歩道を外れて、誰も足を踏み入れたことのない様な奧へ行ってみたい気がする。地面に横
たわると、地下深い富士山のマグマの鼓動が聞こえて来るのではないかと、そんな気がする
のである。

(5月5日)


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