北陸の峠道


尼公峠(にこ峠)

今年初めての峠歩きで、ウキウキと2時間半も掛けて大飯町へやって来た。尼公峠は大飯町川上と
綾部市小和木を結び、尼来峠の北にあって同じく県境稜線上の峠である。2万5千分の1地図「高浜」
の一番下左、綾部市の字の上、林道が県境と最接近している処だ。名前は記されていない。

大飯町に入り、すぐに「小浜綾部線」を川上まで進み、集落の終わる辺りに左に曲がる道がある。そこ
を入って川伝いに行き、川を渡ってさらに川伝いに行くとすぐに直角に曲がり、ここから山の中と云う感じ
の処に来る。綺麗な舗装が終わる処で、目の前に登る尾根が現れる。壊れた小屋の残骸みたいな物が
あり、横に石仏が錆びたお賽銭を前に鎮座している。そこら辺りをうろついて、その石仏の後ろの尾根に
取り付くところを探す。



峠登り口近くの石に彫られた仏 不動明王か 字が読めないのが残念だ
(このページの最後に追記あり)

私は少し左へ廻り小径を見つけ、その小径を歩くか歩かないかの処から尾根に這い上がった。すると
間もなく紛れもないU字型の峠道が始まっていたのである。それは急な尾根を正確にじぐざくに登って
行く。ある処は平行して道があったり、あるいは少し大回りして二重に道があったりして峠道の特徴を
よく残している。急な尾根なので尾根上は掘れた道ばかりという感じで上がってゆくのだ。
(正確には30mほど右へ林道を入った処が登り口らしい。下ってみるとそれと判るのだが)



掘れた峠道の写真はどうしてもうまく撮れない

掘れた道には動物の糞がとても多い。そして雪で折れたのか枯れた小枝をばちばちと踏みながらゆっ
くりと登った。今年初めての鴬の声も聞いた。ゆっくり歩いても今日は気温が高いのか暑く汗が流れる。
U字型の道は途切れる事無く続き、この峠道は今でも訪れる人が多いのかなと思ったりする。集落から
近いので地元の方達が使うのだろうか。

細い灌木などが煩くなってきたら峠は近い。最後は明らかに峠道でない真っ直ぐな道になると、まもなく
林道に這い上がることになる。すぐそこに峠への入り口があった。峠には頭の無いお地蔵さんがいて花
が供えられていた。誰がわざわざここまで花を供えにきたのだろう。それも頭の無いお地蔵さんに...。



頭の無い峠のお地蔵さん

綾部側は綺麗な杉木立の中を下っていた。当初は此処を下るつもりでいたが、登る前に1時間ばかり
他に時間を費やしたのと、登り口近くで会ったご老人が、向こう側へ降りたいと言ったら難しい顔をされ
たので、多分道は荒れていて沢を伝ってと云うことなのだろうと思ってやめにした。



小和木側(手前)へ下る道 杉の木が見事に並んでいた

その代わり県境の稜線を西にあるいてみた。隣の菅の坂を探そうと思ったのだが、15分位で急な斜面に
なったので、あっさりと遠慮して林道を歩くことにしたのである。でも、ここの県境は歩きやすく目印が沢山
付けられていて迷いようがない。県境歩きを楽しむ方が最近は多いのだろうか。

林道をだいぶ歩いてみたが、こちらの峠道は見つけることは出来なかった。もしかしたら、あと50mほど
先へ行っていれば見つけられたかもしれないが、林道を戻って峠を下り、車で2時間半は走って帰らねば
ならないので仕方がないところだ。

尼公峠はその道の具合からして、昔は多くの人達が物資の輸送に行き交っていた重要な道だったと思
われる。尼来峠と同じ様な役割をはたしていたのだろう。ゆっくり登って1時間、福井にもまだまだ私の知
らない素敵な峠道があるのだなと思った。いつまでもこのままであって欲しい峠道である。

左手の腕時計のバンドがきつそうに手がむくんでいるのに気が付いた。バンド沿いに3カ所も虫に刺され
ていたのである。

('04年3月17日)
峠の標高は400m程
2万五千分の1地図 「高浜」

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<追記> ’07年6月15日

 つい数日前、この峠の麓の川上地区で生まれ育った昭和6年生まれの方からメールを頂いきました。
このページの最初の写真の不動様を彫られた方で、私が 彫られた字が読みにくかったと書いたので
石を洗って、字に黒い色を入れられたとのことです。そこには 「この谷の、この土を食い、この風に
吹か
れて生きたい」 と彫られてあるとのことでした。 この土地で苦労も喜びも共にして生活されて
来られた方の思いが込められている文だと感じました。

もともとあった不動様が盗まれてしまい、これを彫ることになったそうです。この方はここで炭焼きもさ
れたそうで、何年も仕事で尼公峠、菅坂を越えられたとのことです。何十年振りかで菅坂の峠に登ら
れたとき、お地蔵さんが倒れて埋もれていたのを見つけ、元に戻されたと云うことでした。 私も是非
菅坂へ行ってみたいと思っています。